引用の作法と著作権:知への態度と責任
引用には、著作権という法律の決まりと、学術のルールや慣行という二つの決まりが関わります。二つは重なりますが、別のものです。学術の作法を守ることが「知への態度と責任」の問題である理由、著作権法でいう引用の条件、図表を原則として載せない理由(転載と許諾)、「©」の誤解を紹介します。
引用には、二つの決まりが関わります。一つは著作権という法律の決まり、もう一つは学術のルールや慣行(作法)です。二つは重なるところもありますが、別のものです。レポートでまず問われるのは、学術の作法のほうです。
(この記事は、法律の解説ではありません。著作権について具体的に迷うときは、大学の図書館や担当の窓口に相談してください。)
二つの決まり
| 決まり | 何を守るためのものか | 守らないと |
|---|---|---|
| 著作権 | 文章や図、写真などを作った人の権利 | 権利の侵害になる(法律の問題) |
| 学術の作法 | 誰の知見かを明らかにし、読み手が元の文献で確かめられるようにすること | 剽窃などの研究不正になり、学術的な評価に値しない(「レポートの不正」) |
学術の作法は、知への態度と責任の問題
学術の知識は、多くの人の研究の積み重ねでできています。出典を示すことには、次のような意味があります。
- 知見を生み出した人への敬意:その考えや結果が、誰の仕事によるものかを示す
- 自分の主張の足場を示す責任:自分の主張が、どの知見の上に立っているのかを明らかにする
- 読み手が確かめられるようにする:読み手が元の文献に当たり、主張と根拠を検討できるようにする(「批判的に考える」)
ですから、学術の作法は、法律に触れるかどうかとは別に守るものです。
- アイデアや研究の結果は、著作権では守られません。それでも、他人のアイデアや結果を出典なしに使えば、剽窃です
- 著作権の切れた古い文献(たとえば、1885年のエビングハウスの研究)を使うときも、出典は示します
- 授業の配布資料や講義の内容、友人から聞いた考えも、自分のものとして書かず、出どころを示します
反対に、学術の作法を守っていても、著作権の面で問題になることがあります。次の節の図表の転載や、長い文章を丸ごと載せる場合です。
著作権法でいう「引用」
他人の著作物は、ふつう、作った人の許しがなければ使えません。著作権法は、その例外として、公表された著作物を「引用」として使える場合を定めています。公正な慣行に合い、引用の目的の上で正当な範囲内であることが条件です(第32条)。一般に、次のような点が求められると説明されています。
- 自分の文章が主で、引用する部分が従であること
- 引用する部分が、かぎかっこなどで、自分の文章とはっきり区別されていること
- 引用する必然性があること
- 出所を示すこと(第48条)
これは主に、他人の文章をそのまま使う直接引用にかかわる話です。レポートの引用の基本である間接引用(自分の言葉でまとめる引用)は、文章そのものを写さないので、著作権の上では問題になりにくい使い方です。それでも、学術の作法では、出典が必要です(「根拠と引用」)。
図表は、原則として載せない
他人の論文や本の図表、写真、イラストを、そのまま自分のレポートに載せることは、文章の引用とは分けて考えます。図表をそのまま載せるのは、転載にあたるからです。
- 学術の慣行では、図表を転載するときは、著作権を持つ人(著者や出版社)の許諾を得て、「〜より許諾を得て転載」のように示します
- 許諾を得ずに載せれば、無断転載です。出典を書いても、許諾の代わりにはなりません
そのため、レポートでは、他人の図表は原則として載せません。代わりに、次のようにします。
- 図表が示している結果を、本文で、言葉と数値で説明し、出典を示す
- 自分でデータを集めたなら、自分のデータで図表を作る(「図と表の作り方」)
- 論文に書かれた数値を使って、自分で新しく表やグラフを作るときは、「高橋(2019)の数値をもとに作成」のように示す。ただし、元の図表の形をなぞって写すのは、転載と変わりません
授業によっては、図表の扱いを先生が指定していることがあります。迷ったら、載せる前に先生に確かめましょう。卒業論文や学会の発表、公開する資料のように、外に出るものでは、とくに注意が必要です。
ウェブの画像も同じです。「自由に使ってよい」と示された素材(クリエイティブ・コモンズの表示がある素材など)も、使ってよい範囲と、作者の示し方の条件が決まっています。条件を読んで、そのとおりに使います。
「©」は、引用の書き方ではない
「©」(コピーライト)は、著作権を持つのが誰かを示す表示です。引用の書き方でも、使ってよいという許しでもありません。
| よくある誤解 | 実際 |
|---|---|
| 画像の下に「© ◯◯」と書けば、載せてよい | © を書いても、許諾を得たことにはならない。許諾がなければ無断転載 |
| 参考文献の代わりに「© ◯◯」と書く | 出典は、指定の書式で示す(「引用の書式」) |
| 自分のレポートを守るために「©」を付ける | 日本では、作品を作った時点で著作権が生じる。表示は要らない |
確かめること
- 他人のアイデアや結果には、著作権に関係なく、出典を示した
- 直接引用は、かぎかっこで区別し、自分の文章が主になっている
- 他人の図表や画像を、そのまま載せていない(載せるなら、許諾と指示を確かめた)
- 数値をもとに自分で図表を作ったときは、元の資料を示した
- 「©」を、出典の示し方や許諾の代わりにしていない