批判的に考える:クリティカル・シンキングと、よくある誤った批判
クリティカル・シンキング(批判的思考)は、相手を否定することではなく、主張を鵜呑みにせず、根拠や前提を確かめながら考えることです。何を確かめるのか、文献を読む・問いを立てる・自分の論証を見直す・他人の議論を評価する場面での使い方と、レポートでよく見る「誤った批判」の直し方を紹介します。
大学の授業では、「批判的に読みなさい」「批判的に考えなさい」とよく言われます。ここでいう批判的に考える(クリティカル・シンキング)は、相手を否定することではありません。主張を鵜呑みにせず、その主張を支える根拠や前提を確かめながら考えることです。
確かめた結果、「この主張は、ここまでは確かに言える」と認めることも、批判に含まれます(「日常と意味が違う言葉」)。
何を確かめるのか
主張を検討するときは、主張そのものだけでなく、それを支えているものに目を向けます。
| 確かめる所 | 問いかけ |
|---|---|
| 主張 | 何を、どこまで言っているのか。言い切りは強すぎないか |
| 根拠 | 主張を支える事実やデータは何か。出典は確かか |
| 論拠 | 根拠から主張へ進んでよい理由は何か。書かれずに隠れていないか |
| 前提 | 当たり前のこととして置かれているのは何か。それは本当に成り立つか |
| 方法 | データはどう集められたのか。ほかの説明を除けているか |
| 言葉 | 大切な言葉は何を指しているのか。途中で意味が変わっていないか |
それぞれの見方は、「論証」「トゥールミンの論証モデル」「言葉の定義」「誤謬」でくわしく紹介しています。
書く前にも、書いたあとにも使う
批判的に考えることは、他人の文章を評価するときだけのものではありません。レポートを書く流れの、どの段階でも使います。
- 文献を読むとき:著者の主張と根拠を分けて読み、その根拠からどこまで言えるのかを確かめる(「文献の読み方とノートの取り方」)
- 問いを立てるとき:文献の説明で足りない所、前提が確かめられていない所、ほかの説明が残っている所が、問いの種になる(「問いの立て方」)
- 自分の論証を見直すとき:同じ見方を自分の原稿に向け、反対の立場の人ならどこを突くかを考える(「反論と再反論」)
- 他人の議論を評価するとき:書評や講読、先行研究のまとめで、主張と根拠を吟味する(「文献を読んで書くレポート」「先行研究のまとめ方」)
いちばん難しいのは、自分の考えに向けることです。自分の主張に都合のよい根拠だけを集めていないか、自分の前提を疑えているかを確かめましょう。
よくある誤った批判
批判のつもりで書いた文が、批判として成り立っていないことがあります。レポートでよく見るのは、次のような形です。
決まり文句で限界を言う
この研究は参加者が40名と少ないので、信用できない。
大学生だけを対象にしているので、一般化できない。
参加者の数や対象の偏りは、たしかに確かめるべき点です。しかし、こうした指摘はどの研究にも当てはまり、それだけでは、その研究の結論のどこが、なぜ揺らぐのかがわかりません。
直し方:その点が、相手の結論にどう響くのかを言います。
この研究は、学習の8時間後に一度だけ再生を測っている。そのため、睡眠の効果が翌日以降まで続くかは、この研究からはわからない。
自分の実験の限界を書くときも同じです(「考察の書き方」)。
完璧でないことを、誤りの証拠にする
この実験は実験室で行われており、日常の学習とは違う。したがって、この結果には意味がない。
限界のない研究はありません。限界があることは、結論が誤っていることを意味しません。
直し方:限界の中で何が言えるのかを認めたうえで、何がまだわからないのかを書きます。「信用できない」「意味がない」ではなく、「ここまでは言える。ここから先は、この研究からはわからない」の形にします。
相手が言っていないことを批判する
高橋(2019)は、睡眠をとれば勉強しなくても覚えられると主張しているが、それは誤りである。
著者の主張を、実際より強い形や極端な形に言い換えてから退けています(「誤謬」の「藁人形論法」)。読み違いから、知らずにこうなることもあります。
直し方:批判する前に、相手の主張を、著者が根拠で示した範囲のとおりに要約します(「文献を読んで書くレポート」)。
人や立場に向ける
この著者は心理学の専門家ではないので、この本の主張は信用できない。
批判の向け先は、主張と根拠です。主張した人の経歴や立場ではありません(「誤謬」の「人に訴える」)。
直し方:経歴や立場が気になるなら、それをきっかけに、根拠や方法のどこに問題があるのかを確かめて示します。
言葉尻をとらえる
主張の中心とは関係のない、小さな言い回しや書きまちがいを取り上げて、議論全体を退ける形です。
直し方:主張の中心に関わる所を検討します。言い回しを問題にするなら、それが主張の意味や範囲にどう関わるのかを言います(たとえば、大切な言葉の意味が途中で変わっている場合)。
否定するだけで終わる
この説明は不十分である。
何が足りないのかが書かれていないため、読み手は検討できません。
直し方:何が足りないのか、どんな根拠があれば十分になるのか、ほかにどんな説明が考えられるのかを示します。
批判として成り立たせるには
- 相手の主張を、正確に要約する:著者が何を、どこまで示したのかを、いちばん強い形で示す
- 向け先を決める:主張・根拠・論拠・前提・方法の、どこを問題にするのか
- 結論への響き方を言う:その問題点が、相手の結論のどこを、なぜ揺るがすのか
- 批判の根拠を示す:文献、データ、筋道
- 妥当な点も認める:どこまでは言えるのかを書く
高橋(2019)は、40名の参加者を二つの条件に無作為に割り当て、学習後に睡眠をとった条件のほうが、起きていた条件より再生数が多いことを示した。経過した時間は同じであるため、この差は時間の経過だけでは説明できない。ただし、再生を測ったのは8時間後の一度だけである。そのため、睡眠の効果が翌日以降まで続くかは、この研究からはわからない。
最初の二文で、相手の主張と、妥当な点を示しています。そのうえで、方法のどこに問題があり、それが結論のどこを限るのかを書いています。
(この記事の例は、説明のための架空のものです。)
確かめること
- 批判する前に、相手の主張を、著者が示した範囲のとおりに要約した
- 批判の向け先(主張・根拠・論拠・前提・方法)がはっきりしている
- その問題点が、相手の結論にどう響くのかを書いた
- どの研究にも当てはまる決まり文句で終わらせていない
- 妥当な点も認めた
- 同じ見方を、自分の論証にも向けた