論文の文章と、ほかの文章:論説・提言・啓発との違い
主張する文章には、論文のほかにも、論説・提言・啓発(教訓や警句)・随筆などがあります。どれも世の中にある文章ですが、目的も結論の形も違います。レポートの結論が問いから離れて警句や提言になってしまう理由と、論文の文章を見分ける観点、直し方を紹介します。
「主張する文章」は、論文だけではありません。新聞の社説や評論、政策の提言、講演やスピーチ、自己啓発の本、随筆。どれも世の中で読まれている文章で、それぞれの役割があります。ただし、目的も、結論の形も、論文とは違います。
レポートでよく見かけるのが、本論までは問いに沿って論じていたのに、結論になると急に、次のような警句や提言で締めくくってしまう書き方です。
私たち一人一人が、睡眠の大切さをもっと自覚すべきである。
今こそ、記憶と向き合う姿勢が求められているのではないだろうか。
こうした文は、啓発の文章やスピーチの締めくくりとしては自然です。しかし、論文の結論にはなりません。この違いを見分けられるようになりましょう。
文章の種類と、その目的
| 文章 | 目的 | 主に示すもの | 結論の形 |
|---|---|---|---|
| 論文・レポート | 問いに答え、それが正しいと言える根拠を示す | 根拠と筋道 | 問いへの答え(根拠で示せた範囲で) |
| 論説・社説・評論 | ある問題について立場を示し、読み手を説得する | 価値判断と、その理由 | 書き手の立場、社会への主張 |
| 提言・意見書 | 何をすべきかを、関係する人に示す | 具体的な方策 | 〜すべきである、〜を求める |
| 啓発・教訓・スピーチ | 読み手や聞き手の心を動かし、行動を促す | 共感、印象的な言葉 | 警句、呼びかけ(〜しよう、〜を忘れてはならない) |
| 随筆 | 書き手の経験や感じ方を、味わいのある言葉で伝える | 書き手の視点 | 余韻、感慨 |
論文は、この中でいちばん、問いと根拠に縛られた文章です。結論で言ってよいのは、本論で根拠を示せたことだけです。
文章の種類によって「私」の位置づけが違うことや、作品の読みを示す批評(文芸評論など)については「「私」の視点と、私がいなくても成り立つ議論」で紹介しています。
なぜ、結論が警句や提言になるのか
- 問いを忘れている:結論を書くときに、序論の問いを見返していない
- 「まとめ」を「教訓」だと思っている:作文や感想文で「これからは〜したい」「〜が大切だと思った」と締めくくる習慣が残っている
- 締めくくりらしさを求める:最後は印象的な一文で終えたほうがよい、と考えてしまう
- 計画せずに書いている:書いているうちに話が広がり、最後に話を大きくまとめようとする(「アウトライン」)
見分けるための合図
結論に次のような言い回しが出てきたら、立ち止まって確かめましょう。
- 〜すべきである、〜しなければならない、〜が求められる
- 私たち一人一人が〜、社会全体で〜
- 〜を忘れてはならない、〜と向き合う必要がある
- 今こそ〜、これからの時代は〜
- 〜ではないだろうか(問いかけの形の主張)
- 〜していきたい、〜を大切にしたい
確かめるのは、次の三つです。
- この文は、序論の問いに答えているか
- この文は、本論で示した根拠から導けるか
- 価値判断(よい・悪い、すべき)を含むなら、その判断の根拠を本論で示したか
どれかが「いいえ」なら、その文は、論文の結論としては書きすぎです。
是非の問いなら、「すべき」は答えになる
ただし、「〜すべきか」という是非の問いを立てたレポートでは、「〜すべきである」は問いへの答えそのものです(「問いの立て方」)。その場合も、
- 本論で、賛否の理由と根拠を検討したうえで
- 根拠が示せた範囲で、条件を付けて
答えます。問題になるのは、問いとは関係なく、最後に付け足される「すべき」や呼びかけです。
直し方
右の列の一行目は、序論の問いが「学習後の睡眠は、記憶の保持を高めるか」だった場合、三行目は「授業での AI の利用を認めてよいか」だった場合の例です。
| 警句・提言になった結論 | 論文の結論への直し方 |
|---|---|
| 私たち一人一人が、睡眠の大切さをもっと自覚すべきである。 | 本レポートで検討した証拠からは、学習後の睡眠が記憶の保持を高めると考えられる。 |
| 今こそ、記憶と向き合う姿勢が求められている。 | (問いと関係がないので削る) |
| AI とうまく付き合っていくことが大切だ。 | 授業での AI の利用は、〜の条件のもとでは認めてよいと考えられる。〜の理由による。 |
結果から考えられる実践への手がかりを書きたいときは、問いへの答えとは分けて、根拠の範囲と条件を明示して書きます。
この結果は、試験の前に睡眠を削って学習することの効果を見直す手がかりになりうる。ただし、本レポートで扱った研究は、単語の記憶の実験に限られている。
これは「示唆」であって、「提言」ではありません(「日常と意味が違う言葉」)。
課題が提言を求めているとき
授業によっては、「〜の問題について、対策を提案しなさい」のように、提言を書くこと自体が課題になっていることもあります。その場合は、提言が答えになります。それでも、
- どんな問題について、なぜその対策が有効と言えるのかを、根拠とともに示す
- 対策の限界や、ほかの選択肢も検討する
ことが求められます。根拠のない呼びかけや、決まり文句で終わらせないようにしましょう(「レトリックとの向き合い方」)。
確かめること
- 結論の文が、序論の問いに答えている
- 結論の文が、本論で示した根拠から導ける
- 問いと関係のない警句や呼びかけで締めくくっていない
- 実践への手がかりを書くなら、問いへの答えと分け、根拠の範囲と条件を示した
- 是非の問いなら、「すべき」の答えに、理由と条件を添えた