問いの立て方:テーマを、答えられる問いにする
「テーマ」と「問い」は違います。問いを深掘りして明確にする考え方、大きな問いと小さな問いの関係、根拠・期限・文献の三つの面から答えられる問いに落とし込む手順を、例とともに紹介します。
レポートの出来は、問いでほとんど決まります。問いがはっきりしていれば、何を調べ、何を書き、何を書かないかが決まります。問いがぼやけていると、どれほど調べても、本論は資料の紹介の並びになってしまいます。
問いは、最初から完成した形で思いつくものではありません。ぼんやりした疑問を、深掘りし、明確にし、答えられる大きさに落とし込む。この記事では、その考え方の道筋を紹介します。
テーマと問いは違う
- テーマ:扱う範囲(「忘却」「SNS と睡眠」)
- 問い:その範囲の中で、答えを出そうとする一つの疑問(「忘却の主な原因は、減衰か、干渉か」)
テーマは、問いを探すための出発点です。「忘却について」のままでは、何に答えればよいのかが決まりません。
テーマが自由なとき
「授業に関係することなら、テーマは自由」という課題では、何を選べばよいか迷うものです。次の所から、出発点を探してみましょう。
- 授業で引っかかった所:納得できなかった説明、もっと知りたいと思った研究、自分の経験と合わないと感じた所
- リアクションペーパーに書いた疑問:授業ごとに書いた疑問は、そのまま問いの種になります(「授業の感想を書く課題」)
- 教科書の章末や、研究の限界の記述:「今後の課題」として挙げられていることは、まだ答えの出ていない問いです
- 身近な疑問:日常で気になったことを、授業で学んだ理論や用語に結びつける
出発点が見つかったら、教科書や事典で、それについて何がわかっていて、何が議論になっているかを確かめます。そのうえで、この記事の手順で問いに絞り込みます。自由に選べるからこそ、授業で学んだことを根拠に使えるテーマを選ぶと、書きやすく、評価もされやすくなります。
問いを深掘りし、明確にする
最初に浮かぶ疑問は、たいてい漠然としています。次の三つの方法で、掘り下げていきましょう。
言葉をはっきりさせる
問いに含まれる言葉が、何を指すのかを決めます。
- 「SNS は悪いか」→ 何に対して悪いのか。睡眠か、学業か、人間関係か
- 「若者は本を読まなくなったか」→ 若者とは誰か。大学生か、10代か
- 「最近、〜が増えている」→ いつと比べて、何で測って増えているのか
言葉があいまいなままでは、何を根拠にすれば答えられるのかも決まりません。
「なぜ」「どのように」「本当に」を重ねる
- 本当に?:その疑問の前提は事実か(「本当に若者は本を読まなくなったのか」)
- なぜ?:それが起きる理由は何か(「なぜ時間がたつと思い出せなくなるのか」)
- どのように?:どんな仕組みや過程で起きるのか(「睡眠は記憶にどのように関わるのか」)
一つ答えると、次の疑問が出てきます。重ねていくうちに、自分が本当に知りたいことの輪郭が見えてきます。
前提を疑う
問いには、気づかないうちに前提が含まれています。「SNS が睡眠を悪くするのはなぜか」は、SNS が睡眠を悪くすることを前提にしています。前提そのものが確かめられていなければ、先に「SNS の利用は睡眠の質と関係があるか」を問う必要があります(「誤謬」の「相関と因果の取り違え」)。文献を読むときも、著者の説明の前提や、残っているほかの説明に目を向けると、問いの種が見つかります(「批判的に考える」)。
大きな問いと小さな問い
問いには大きさがあります。
| 大きさ | 例 | 役割 |
|---|---|---|
| 大きな問い | 人はなぜ忘れるのか | 主題を貫く関心。レポート一本では答えきれない |
| レポートの問い | 忘却の主な原因は、減衰か、干渉か | このレポートで答える問い |
| 小さな問い | 経過時間が同じでも、その間の活動で忘れ方は変わるか | 本論の節や段落で、一つずつ答える問い |
| 小さな問い | 時間の経過だけで記憶が弱まることを示した研究はあるか | 同上 |
レポートは、大きな問いに直接答えるのではなく、大きな問いに迫るための一つの問いに答えるものです。そして、その問いに答えるために、いくつかの小さな問いに分けて、一つずつ答えていきます。
小さな問いは、そのまま本論の組み立てになります。小さな問いの答えを積み上げると、レポートの問いの答えになります。この関係ができていれば、序論の問いと結論の答えがずれにくくなります(「アウトライン」)。
答えられる問いに落とし込む
「答えられる」には、三つの面があります。
1. 根拠で答えられるか
文献やデータを根拠にして、答えを示せる問いかを確かめます。「AI は将来どうなるか」のように、根拠をもって答えようのない問いは、レポートの問いになりません。「現在の資料で何が言えるか」の範囲に絞ります。
2. 期限までに答えられるか
授業のレポートには締切があります。問いが大きすぎると、資料を読み終わらないうちに締切が来てしまいます。
- 2,000字なら、本論で扱える小さな問いは二つか三つ
- 締切までの日数で、読める文献はおよそ何本か
- 自分で調査や実験をする必要がある問いは、その時間があるか
日程の立て方は「提出までの段取り」を見てください。
3. 必要な文献を集められるか
問いを決める前に、その問いに答えるための文献が手に入るかを確かめます。
- 図書館の蔵書検索や論文のデータベースで、関係する文献を軽く探してみる(「文献の探し方」)
- 主な根拠になりそうな文献が、少なくとも数本は見つかるか
- 見つかった文献を、締切までに読めるか(取り寄せに時間がかかるものはないか、外国語の文献ばかりではないか)
文献がほとんど見つからない問いは、卒業論文なら研究する価値があるかもしれませんが、授業のレポートには向きません。少し広げるか、文献のある方向へずらします。
よい問いの条件
ここまでの内容を、確かめるための一覧にまとめます。
| 条件 | 確かめ方 |
|---|---|
| 課題に沿っている | 課題文の主題・範囲・指示と合っているか |
| 言葉がはっきりしている | 問いの中の言葉が、何を指すか決まっているか |
| 調べればすぐにわかる事実ではない | 事典を一度引けば答えが出る問いになっていないか |
| 答えが決まりきっていない | 答えが「はい」に決まっている問いになっていないか |
| 根拠で答えられる | 文献やデータで答えを支えられるか |
| 期限までに答えられる | 字数と締切の中で、小さな問いに分けて答えきれるか |
| 文献を集められる | 主な根拠になる文献が見つかり、読めるか |
問いの種類
問いの型によって、本論でする作業が変わります。
| 問いの型 | 例 | 本論ですること |
|---|---|---|
| 何か(性質・実態) | 大学生の睡眠時間は、どのくらいか | 資料やデータで、実態を示す |
| なぜ〜か(原因) | なぜ時間がたつと思い出せなくなるのか | 原因の候補を挙げ、証拠で比べる |
| どのように〜か(仕組み・過程) | 睡眠は、記憶の保持にどのように関わるのか | 段階や要因に分けて説明する |
| A か B か(比較) | 忘却の主な原因は、減衰か、干渉か | 同じ観点で二つを比べる |
| 〜は〜か(真偽) | 寝る前の SNS の利用は、睡眠の質を下げるか | 根拠を示して、そうであるか、ないかを検討する |
| 〜すべきか(是非) | 大学の授業で、AI の利用を認めるべきか | 賛否の理由を検討し、立場を示す |
課題文が「比較しなさい」なら比較の問い、「論じなさい」なら原因や是非の問いのように、課題文の動詞と問いの型を合わせると、課題に答えやすくなります。
問いと答えの型をそろえる
問いには型があり、型ごとに、それに合った答えの型があります。「なぜ」の問いには原因で、「どのように」の問いには過程や仕組みで答えます。
| 問いの型 | 合った答えの型 | 型がずれた答えの例 |
|---|---|---|
| 何か | 〜である(性質・実態) | 「睡眠時間を増やすには、〜すればよい」(方法を答えている) |
| なぜ〜か | 〜だからである(原因・理由) | 「忘却には、減衰と干渉の二つの考え方がある」(原因ではなく、考え方の紹介で終わっている) |
| どのように〜か | 〜という過程で、〜という仕組みで | 「睡眠は記憶にとって大切である」(過程ではなく、重要さを答えている) |
| A か B か | A のほうが〜である/〜の条件では B のほうが〜である | 「どちらにも、よい点と悪い点がある」(選んでいない) |
| 〜は〜か | 〜である/〜ではない/〜の場合に限って〜である | 「SNS には多くの問題がある」(そうであるかどうかに答えず、別のことを述べている) |
| 〜すべきか | 〜すべきである/すべきではない(理由と条件つき) | 「AI には長所と短所がある」(立場を示していない) |
型のずれには、書いた本人は意外と気づきません。とくに、計画を立てずに思いつくままに書き進めると、書いているうちに答えの型が問いの型からずれていきがちです(「アウトライン」)。
次の三つの時点で、型がそろっているかを確かめましょう。
- 仮の答えを書いたとき:仮の答えの文が、問いの型に合った答えの型になっているか(「課題に答える」)
- 本論の小さな問いを立てたとき:小さな問いの答えを積み上げると、レポートの問いの型に合った答えになるか
- 結論を書いたとき:結論で示す答えが、序論の問いの型にそのまま対応しているか(「結論の書き方」)
テーマから問いへ:手順のまとめ
- 知っていることを書き出す:テーマについて、すでに知っていること、聞いたことを書く
- 疑問を出す:「なぜ」「どのように」「本当に」をつけて、思いつく疑問を並べる
- 調べてみる:教科書や事典で、何がわかっていて、何が議論になっているかを確かめる
- 深掘りし、言葉をはっきりさせる:あいまいな言葉を定め、前提を確かめる
- 絞る:対象・時期・観点のどれかを限定して、範囲を小さくする
- 小さな問いに分ける:答えるために確かめるべきことを、二つか三つ挙げる
- 答えられるかを確かめる:根拠・期限・文献の三つの面から見る
- 一文の疑問文にする:「〜は〜か」「なぜ〜か」のように、「〜か」で終わる一文で書く
絞り込みの例です。
- テーマ:SNS
- 少し絞る:SNS と大学生の生活
- さらに絞る:SNS の利用と、大学生の睡眠
- レポートの問い:寝る前の SNS の利用は、大学生の睡眠の質を下げるか
- 小さな問い:寝る前の画面の利用と睡眠の質には関係があるか/関係があるなら、その理由として何が考えられているか
よくある問いの失敗
| 問い | どこが問題か | 直し方の例 |
|---|---|---|
| 記憶とは何か | 大きすぎて、期限内に答えきれない | 記憶のどの側面を問うかを決める |
| 睡眠は大切か | 答えが当たり前で、論じる余地がない | 「何に対して、どのように大切か」を問う |
| 忘却曲線はいつ発表されたか | 調べれば一行で答えが出る事実 | その研究が何を明らかにしたか、を問う |
| SNS は悪いか | 「悪い」の意味があいまいで、根拠で答えにくい | 何に対する、どんな影響かを特定する |
| 〇〇町の高齢者の読書習慣はどう変わったか | 授業のレポートで集められる資料がない | 統計や文献のある範囲(全国の調査など)に広げる |
問いは、書きながら磨いてよい
調べるうちに、最初の問いが広すぎた、別の問いのほうが大切だと気づくことはよくあります。そのときは、問いを立て直してかまいません。ただし、問いを変えたら、序論・本論・結論のすべてを新しい問いに合わせて見直します。実験や調査のレポートでは、結果を見てから仮説を変えてはいけません。結果に合わせて書き換えると、はじめからそう予測していたように見せることになるからです(「仮説の立て方」)。
立てた問いを序論でどう示すかは「序論の書き方」で紹介しています。AI に「この問いは広すぎますか」と相談するのも一つの方法です(「AI を使った執筆の進め方」)。