トゥールミンの論証モデル:主張・データ・論拠
論証を六つの部品に分けて考える、トゥールミンのモデルです。主張・データ・論拠を中心に、裏づけ・限定・反駁の役割と、自分の論証のすき間を見つける使い方を紹介します。
トゥールミンの論証モデルは、イギリスの哲学者スティーヴン・トゥールミンが『議論の技法』(原著 The Uses of Argument, 1958年)で示した、論証の組み立てを表す型です。論証を六つの部品に分けて見ることで、自分の論証のどこが弱いのかを見つけやすくなります。
中心の三つ:主張・データ・論拠
| 部品 | 役割 | 問いかけ |
|---|---|---|
| 主張(クレーム) | 言いたいこと、結論 | 何を言いたいのか |
| データ | 主張の出発点になる事実 | 何にもとづいて言うのか |
| 論拠(ワラント) | データから主張へ進んでよい理由 | なぜそのデータから、その主張が言えるのか |
例で見てみましょう。
- データ:覚えたあとに眠った場合は、起きていた場合よりもよく思い出せた
- 主張:忘却の主な原因は、時間の経過ではなく干渉である
- 論拠:眠っているあいだは新しい情報がほとんど入らず、経過した時間は同じだったのだから、思い出しやすさの差は、その間に入ってきた情報の量の差によると考えられる
データと主張だけを並べると、二つのあいだのつながりは読み手の想像にまかされます。論拠は、そのつながりを言葉にしたものです。
「論証」の「主張・理由・根拠」と比べると、根拠がおおむねデータに、理由が論拠にあたります。ただし、対応はぴったりではありません。「論証」では、根拠が理由を支え、理由が主張を支える、という順に説明しています。トゥールミンのモデルでは、データが主張を支え、論拠はデータと主張のつながりを示すものとして分けて考えます。論拠そのものを支える研究や事実は、次に紹介する裏づけにあたります。
論拠は書かれずに隠れやすい
論証の飛躍の多くは、論拠が書かれていないところで起こります。書き手にとっては当たり前のつながりでも、読み手には当たり前ではないことがあるからです。
この町では図書館の利用者が減った。だから、若者の読書離れが進んでいる。
ここには「図書館の利用者が減ったのなら、読書をする人も減っている」「利用者が減ったのは主に若者である」という論拠が隠れています。書き出してみると、電子書籍や書店での購入もある、利用者の年齢はわからない、といった弱さが見えてきます。
自分の論証を見直すときは、データと主張のあいだに「なぜなら、〜だからだ」と論拠を書き足してみましょう。うまく書けなければ、そこが論証のすき間です。
残りの三つ:裏づけ・限定・反駁
| 部品 | 役割 | 例 |
|---|---|---|
| 裏づけ(バッキング) | 論拠そのものが正しいと言える支え | 睡眠中の干渉の少なさを示したほかの研究 |
| 限定(限定語) | 主張がどの程度確かかを示す言葉 | 「おそらく」「多くの場合」「〜と考えられる」 |
| 反駁(例外の条件) | 主張が成り立たなくなる条件 | ただし、睡眠が記憶の定着を積極的に助けている可能性もある |
裏づけ
論拠に疑問を持たれそうなときは、それを支える研究や事実を示します。論拠がその分野で広く受け入れられているなら、裏づけは短くてかまいません。
限定
データがどれほど強いかに合わせて、主張の強さを調整します。親の記事「論証」の「言い切りの強さをそろえる」は、この限定の考え方にあたります。
反駁
「〜の場合はこの限りではない」という例外の条件をあらかじめ示します。反論に先回りして答えておくことで、主張の範囲がはっきりし、かえって説得力が増します(「反論と再反論」)。
三角ロジック
日本の授業では、六つのうち主張・データ・論拠の三つだけを取り出して、三角形で表し、「三角ロジック」と呼ぶことがあります。まずはこの三つがそろっているかを確かめるだけでも、論証はずっと強くなります。
レポートでの使い方
トゥールミンのモデルは、論証を書くためのひな形というより、書いた論証を点検する道具として役に立ちます。
- 本論の段落ごとに、主張・データ・論拠を書き出す
- 論拠が本文に書かれているかを確かめる(なければ書き足す)
- 論拠に疑問を持たれそうなら、裏づけを足す
- 主張の強さが、データの強さに合っているかを確かめる
- 主張が成り立たなくなる条件を一つ考え、必要なら本文で触れる
段落の中心文が主張に、支持文がデータと論拠にあたるように組み立てると、「パラグラフ・ライティング」の型とも自然に重なります。