事実と意見を区別する
学術的な文章では、確かめられる事実と、書き手の判断である意見を、読み手が区別できるように書きます。事実・推論・意見の違い、文末や出典での書き分け方、よくある混ざり方と直し方を紹介します。
レポートを読む人は、書かれていることの一つ一つについて「これは確かめられる事実か、それとも書き手の考えか」を知りたいと思っています。この区別があいまいだと、読み手は何を信じ、何を検討すればよいのかがわかりません。
事実と意見の区別は、日本語の学術的な文章の書き方を説いた本でも、とくに大切なこととしてくり返し取り上げられてきました(たとえば、木下是雄『理科系の作文技術』中公新書、1981年)。
事実・推論・意見
| 種類 | どういうものか | 例 |
|---|---|---|
| 事実 | 観察・測定・記録によって、ほかの人も確かめられること | 実験では、睡眠をとった条件の再生数が多かった |
| 推論(解釈) | 事実から、筋道を立てて導いたこと | 睡眠中は新しい情報が入らないため、干渉が少なかったと考えられる |
| 意見(評価・主張) | 書き手の判断や評価、すべきだという考え | 忘却は、減衰説よりも干渉説のほうがよく説明できる |
事実は、正しいか誤りかを確かめられます。推論と意見は、それを支える理由と根拠によって、説得力が決まります。レポートの論証は、事実を根拠にして、推論を経て、意見(主張)に至る組み立てです(「論証」)。ここでいう主張は、序論の問いへの答えです。「〜すべきである」という意見が主張になるのは、「〜すべきか」という是非を問うたレポートの場合です(「結論の書き方」)。
ことばの注意:「客観的に見て〜だ」と書いても、それだけで客観的にはなりません。学術でいう客観的とは、手続きと根拠が示されていて、ほかの人が確かめられることです(「日常と意味が違う言葉」)。
書き分け方
文末で示す
| 種類 | 文末の例 |
|---|---|
| 事実 | 〜であった、〜が示されている、〜と報告されている |
| 推論 | 〜と考えられる、〜と推測される、〜の可能性がある |
| 意見 | 〜べきである、〜が望ましい、〜と言える |
出典で示す
文献にもとづく事実には、出典を付けます。出典があれば、読み手はその事実を確かめられます。
他人の意見は、他人の意見として示す
文献の著者の意見を、事実のように書かないようにします。
- 誤り:干渉説は、減衰説よりも優れた説明である。
- よい:中村(2019)は、干渉説のほうが減衰説よりも多くの実験結果を説明できると主張している。
著者の主張を紹介したあとで自分の意見を述べるときは、「しかし、〜をふまえると、〜と考えられる」のように、根拠を示して続けます。他人の主張には著者名と出典を付けているので、「筆者は」と書かなくても、主語のない主張は書き手の主張として読まれます。自分の中の考えが、誰かの主張なのか、私がいなくても成り立つ主張なのか、私ならではの見方なのかを仕分ける考え方は「「私」の視点と、私がいなくても成り立つ議論」で紹介しています。
よくある混ざり方
意見を、事実のように書く
SNS は若者の睡眠に悪影響を与えている。
もっともらしく聞こえますが、根拠が示されていない意見です。調査の結果があるなら出典を付けて事実として書き、なければ「〜の可能性がある」と推論として書くか、根拠を探します。
事実だけが並び、意見がない
調べた事実を並べただけで、そこから何が言えるのかを書かないと、説明型の文章になります。課題が「論じなさい」なら、事実から導いた自分の主張が必要です(「レポート・論文・エッセイの違い」)。
意見の中に、確かめていない事実が紛れ込む
最近の大学生は本を読まなくなっているので、読書の時間を授業に組み込むべきである。
意見の前提に「最近の大学生は本を読まなくなっている」という事実の主張があります。この前提が確かめられていなければ、意見全体が成り立ちません。前提になっている事実にも、根拠を示しましょう。
「思う」「感じる」で、事実も推論もぼかす
「〜と思う」は、事実にも推論にも意見にも使えてしまうため、区別がつかなくなります。文の種類に合った文末を選びましょう(「文体と表記」)。
書いたあとに確かめる
- 事実を述べた文には、出典かデータが示されている
- 推論の文は、「〜と考えられる」など、推論とわかる言い方になっている
- 他人の意見には著者名と出典があり、主語のない主張は自分の意見として読める
- 文献の著者の意見を、事実のように書いていない
- 意見の前提になっている事実にも、根拠がある
段落ごとに、事実には下線、推論には波線、意見には二重線、と印を付けてみると、混ざっているところが見つけやすくなります。
(この記事の例に出てくる文献は、説明のための架空のものです。)