反論と再反論:反対の立場を取り上げて主張を確かにする
説得力のある論証は、反対の立場にも目を配っています。反論の見つけ方、反論の四つの向け先、「確かに〜。しかし〜」の書き方と三つの応じ方、避けたい取り上げ方を、例とともに紹介します。
自分の主張だけを並べたレポートは、読み手に「都合の悪いことは書いていないのではないか」と思わせます。反対の立場を取り上げ、それに応じることで、主張はどこまで言えるのかがはっきりし、かえって確かなものになります。
反論を取り上げるのは、相手を言い負かすためではありません。自分の主張がどこまで言えるのかを確かめるためです(「日常と意味が違う言葉」)。
反論を見つける
- 立場を入れ替えて考える:自分と反対の結論をとる人なら、どこを突くかを考える
- 文献の中の反対意見を探す:同じ問いについて、別の結論を出している研究や、批判している研究がないかを見る
- 自分の論証の弱いところを見る:根拠が一つしかない所、相関から因果を言っている所、論拠が書かれていない所(「トゥールミンの論証モデル」)
- 人に読んでもらう:友人に読んでもらったり、AI に「この主張に対して、どんな反論が考えられますか」と尋ねたりする(「AI への相談のしかた」)
反論の四つの向け先
反論は、主張のどこに向けられているかで、四つに分けられます。
| 向け先 | 例(主張:忘却の主な原因は干渉である) |
|---|---|
| 根拠 | その実験は参加者が少なく、結果は偶然かもしれない |
| 論拠(根拠と主張のつながり) | 睡眠中に忘却が少ないのは、干渉が減ったからではなく、記憶の定着が進んだからかもしれない |
| 前提・定義 | その研究の「忘却」は単語のリストの再生で、日常の物忘れとは違う |
| 結論の範囲 | 干渉が関わることは認めるが、「主な」原因とまでは言えない |
どの向け先の反論かがわかると、どう応じればよいかも決めやすくなります。
書き方の型:確かに〜。しかし〜。
反論を取り上げるときは、ふつう次の順で書きます。
- 反論を示す:「確かに」「〜という見方もある」「〜という批判がありうる」
- 反論に応じる:「しかし」「ただし」「それでも」
- 主張に戻る:「したがって」「以上から」
確かに、睡眠中に忘却が少ないことは、記憶の定着が睡眠中に進むためとも説明できる。しかし、起きているあいだでも、覚えたあとに学ぶ内容が元の内容と似ているほど、忘却が多くなることが報告されている(中村, 2019)。この結果は、定着の進み方だけでは説明しにくい。したがって、忘却の少なくとも一部は、ほかの情報による干渉によると考えられる。
三つの応じ方
反論への応じ方は、反論の強さによって変わります。
| 応じ方 | どんなときに | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 根拠を示して退ける | 反論を否定できる根拠があるとき | しかし、〜という結果があり、この見方は当てはまらない |
| 一部を認め、主張の範囲を狭める | 反論にも一理あるとき | 確かに〜の場合はそう言える。ただし、少なくとも〜の場合には〜と言える |
| 認めて、限界として書く | いまの資料では答えられないとき | この点は本レポートでは検討できなかった。今後〜を確かめる必要がある |
反論をすべて退ける必要はありません。認めるべきところは認め、主張の範囲を正確に示すほうが、読み手の信頼を得られます。
避けたい取り上げ方
- 弱い形に言い換えて退ける:反論を実際より極端な形にして退けるのは、藁人形論法という誤謬です(「誤謬」)。反論は、その立場の人が実際に述べている、いちばん強い形で取り上げます
- 取り上げて、応じない:反論を並べただけで答えないと、主張が崩れたまま終わります
- 反論ばかりで、主張が見えない:反論の検討は、自分の主張を確かにするためのものです。最後は必ず主張に戻ります
- 人に向けた反論:反論を向けるのは、主張と、それを支える根拠や論拠です。主張した人の立場や人柄を攻撃するのは、人身攻撃という誤謬です(「誤謬」)
反論や批判のつもりで書いた文が、批判として成り立たない形は、ほかにもあります(「批判的に考える」)。
どこに置くか
- 本論の各段落で、その段落の主張に対する反論に応じる
- 本論の最後に、反論を検討する節をまとめて置く
どちらでもかまいませんが、アウトラインの段階で置き場所を決めておくと、全体の流れが崩れません(「アウトライン」)。
(この記事の例に出てくる文献は、説明のための架空のものです。)