論証:主張と理由をつなぐ
「そう思う」を「そう言える」に変えるのが論証です。主張・理由・根拠の組み立て方と、反論への目配りの仕方、言い切りの強さのそろえ方を紹介します。
レポートや論文で求められるのは、感想ではなく論証です。論証とは、自分の主張が正しいと言える理由を、読み手がたどれる形で示すことです。
主張・理由・根拠
論証は、次の三つでできています。
- 主張:言いたいこと(「忘却の主な原因は干渉である」)
- 理由:なぜそう言えるのか(「新しい学習の量が多いほど、前の記憶が思い出しにくくなるから」)
- 根拠:理由を支える事実やデータ(実験の結果、統計、文献)
主張だけをくり返しても、読み手は納得しません。書いた主張の一つ一つに「なぜそう言えるのか」「それは何でわかるのか」と自分で問いかけ、答えを書き足していきましょう。
論証をもっと細かく部品に分けて点検したいときは、「トゥールミンの論証モデル」が役に立ちます。根拠にする事実と、自分の意見を書き分ける方法は「事実と意見を区別する」で、大切な言葉の意味の決め方は「言葉の定義」で、推論の型は「演繹と帰納」で紹介しています。
よくある飛躍
一見すると筋が通っているのに、論証としては成り立たない推論を誤謬と呼びます。レポートでとくに多いのは、次の三つです。
- 早まった一般化:一つの例や少ない例から、広い結論を出す
- 相関と因果の取り違え:一緒に起きることを、原因と結果の関係だと思い込む(「誤謬」)
- 権威に訴える:「有名な研究者がそう言っている」ことを、理由の代わりにする
例と直し方、ほかの誤謬は「誤謬」にまとめてあります。
反論に先回りする
説得力のある論証は、反対の立場にも目を配っています。
- 自分の主張に対して、どんな反論がありうるか
- その反論に、どう答えられるか
- 答えきれない点があるなら、それを認める
「減衰説を支持する研究もある。しかし、それらの研究では〜が統制されていない」のように、反論を取り上げてから応じると、主張はかえって強くなります。反論を無視したレポートは、読み手に「都合の悪いことを書いていない」と受け取られます。反論の見つけ方と応じ方は「反論と再反論」でくわしく紹介しています。
ことばの注意:反論を取り上げるのは、相手を「論破」するためではなく、自分の主張がどこまで言えるのかを確かめるためです。学術でいう「議論」や「批判」も、言い争いや非難ではなく、根拠をもとに主張を検討することです(「日常と意味が違う言葉」)。
言い切りの強さをそろえる
根拠の強さに合わせて、文末の言い切りを調整します。
| 根拠の強さ | 文末の例 |
|---|---|
| 複数の研究で一貫している | 〜である、〜が示されている |
| 有力だが反対の結果もある | 〜と考えられる、〜の可能性が高い |
| 自分の推測にとどまる | 〜の可能性がある、〜と推測される |
根拠が弱いのに「〜である」と言い切ると、読み手の信頼を失います。逆に、どの文も「〜と思われる」ばかりだと、何を主張しているのかがぼやけます。
書き終えたら確かめること
- 序論の問いへの答え(主張)は、本論で理由と根拠に支えられているか
- 一つの例だけで、大きな結論を出していないか
- 反対の立場を一度は取り上げているか
- 文末の言い切りの強さは、根拠の強さに合っているか
この記事の細目
- トゥールミンの論証モデル:主張・データ・論拠
論証を六つの部品に分けて考える、トゥールミンのモデルです。主張・データ・論拠を中心に、裏づけ・限定・反駁の役割と、自分の論証のすき間を見つける使い方を紹介します。
- 事実と意見を区別する
学術的な文章では、確かめられる事実と、書き手の判断である意見を、読み手が区別できるように書きます。事実・推論・意見の違い、文末や出典での書き分け方、よくある混ざり方と直し方を紹介します。
- 言葉の定義:大切な言葉の意味を決めて使う
レポートの問いや主張に出てくる大切な言葉は、何を指すのかを決めてから使います。定義が必要な言葉の見つけ方、国語辞典ではなく専門の文献から定義する理由、レポートでの使い方を示す書き方、定義を最後まで守ることを紹介します。
- 反論と再反論:反対の立場を取り上げて主張を確かにする
説得力のある論証は、反対の立場にも目を配っています。反論の見つけ方、反論の四つの向け先、「確かに〜。しかし〜」の書き方と三つの応じ方、避けたい取り上げ方を、例とともに紹介します。
- 演繹と帰納:推論の二つの型
前提から必ず結論を導く「演繹」と、個々の事例から一般的な結論を導く「帰納」は、確かさの性質が違います。二つの推論の違いと、実験で仮説を確かめるときの考え方、よくある推論の誤り(後件肯定)を紹介します。