ケーススタディの書き方:事例を記述し、分析する
教育・看護・福祉・経営・心理臨床などで書くケーススタディ(事例研究)は、一つの事例をくわしく記述し、理論や枠組みを使って分析し、そこから学べることを示す文章です。組み立て、事実と解釈の分け方、事例の扱いの倫理を紹介します。
ケーススタディ(事例研究)は、一つの事例、または少数の事例をくわしく取り上げ、それを理論や枠組みに照らして分析し、そこから何が学べるかを示す文章です。教育実習や臨地実習の振り返り、企業の事例の分析、相談の事例の検討など、多くの分野で書かれます。
分野によって、決まった書式があることが多い文章です。授業や実習の手引きがあれば、それに従ってください。
組み立て
| 部分 | 書くこと |
|---|---|
| はじめに | なぜこの事例を取り上げるのか。この事例から何を明らかにしたいのか(問い) |
| 事例の記述 | 事例の背景と、起きたことの経過 |
| 分析 | 理論や枠組みを使って、事例で起きたことを読み解く |
| 考察 | 分析から何が言えるか。ほかの事例にも当てはまりそうなこと、当てはまらないこと |
| おわりに | 問いへの答えと、この事例から得た学び、残る課題 |
事例を取り上げる理由と問いがはっきりしていないと、事例の記述が「出来事の報告」で終わってしまいます。問いを先に決めましょう(「問いの立て方」)。
事実と解釈を分ける
ケーススタディでいちばん大切なのは、事例で起きた事実と、それについての解釈を分けて書くことです(「事実と意見を区別する」)。
- 事実:「授業の後半、Bさんは教科書を閉じ、窓の外を見ていた」
- 解釈:「Bさんは、課題の難しさについていけなくなっていたと考えられる」
事例の記述の部分には事実を書き、解釈は分析と考察の部分に書きます。事実の中に解釈を混ぜる(「Bさんはやる気をなくして窓の外を見ていた」)と、読み手は、それが観察されたことなのか、書き手の推測なのかを判断できません。
理論や枠組みを使って分析する
分析では、授業で学んだ理論や枠組みを、事例に当てはめて読み解きます。
- 使う理論や枠組みを、出典とともに示す(「根拠と引用」)
- 事例のどの事実が、理論のどの部分に当たるのかを、具体的に結びつける
- 理論でうまく説明できない事実があれば、それも書く
理論に合う事実だけを選んで書くと、分析は都合のよい当てはめになってしまいます。
一つの事例から、どこまで言えるか
一つの事例からわかることは、その事例についてのことです。「だから、すべての子どもは〜」のように広げると、早まった一般化になります(「誤謬」)。
考察では、この事例ならではの条件を確かめたうえで、
- ほかの事例にも当てはまりそうなこと
- この事例だけの事情によるかもしれないこと
を分けて書きます。
事例の扱いの倫理
ケーススタディでは、実在の人や組織を扱うことが多いため、とくに注意が必要です。
- 個人が特定されないようにする:名前は記号(Aさん、B社)にし、実名の頭文字(イニシャル)は使わない。年齢・所属・地域などは、分析に必要な範囲でぼかす
- 守秘の義務を守る:実習先や相談の場で知った情報は、授業の決まりや、実習先との約束の範囲でしか使わない
- 学外で発表するときは、とくに慎重に:学会など学外で発表するときは、当事者の同意と、実習先・施設の許可、場合によっては倫理審査が必要になる
- 同意を確かめる:授業のレポートでも、事例の当事者の同意や、実習先の許可が必要な場合がある。先生に確かめる
- 記録を、決められた範囲の外に出さない:実習の記録やメモは、指導者など決められた人以外に渡さず、AI のサービスに入力しない(「AI に入れてはいけない情報」)
くわしくは「人からデータを集めるときの倫理」も見てください。
文体
- 事例の経過は、起きた順に、過去形で書く
- 事例の当事者への評価や感情の言葉(「かわいそうな」「だらしない」など)は使わない
- 書き手自身が関わった事例(実習など)で、自分の行動を書くときは、「実習生は」「筆者は」などと書くことがある。分野の書式に従う(「文体と表記」)