先行研究のまとめ方:何がわかり、何がわかっていないか
先行研究のまとめは、文献の紹介を並べることではなく、これまでの研究で何がわかり、何がわかっていないかを整理して、自分の問いの位置を示すことです。文献を表で整理する方法、まとめる軸の選び方、空白から問いを導く書き方、よくある失敗を紹介します。
卒業論文の序論(問題と目的)の中心は、先行研究のまとめです。ここで示すのは、「これまでの研究で何がわかっていて、何がまだわかっていないか。だから、この研究でこれを明らかにする」という流れです。授業のレポートの序論で、主題から問いを導くのと同じ形を、より厚く書くものと考えてください(「序論の書き方」)。
紹介を並べない
よくある失敗は、読んだ文献を一つずつ紹介して並べることです。
高橋(2019)は、〜を調べ、〜という結果を得た。伊藤(2021)は、〜を調べ、〜という結果を得た。渡辺(2022)は、〜を調べ、〜という結果を得た。
これでは、研究どうしの関係も、何がわかっていないのかも見えません。先行研究のまとめは、文献ごとではなく、論点ごとに組み立てます。
学習後の睡眠が記憶の保持を高めることは、複数の研究で一貫して示されている(伊藤, 2021; 高橋, 2019)。一方で、その理由については、睡眠中は干渉が少ないためとする説明と、睡眠中に記憶の定着が進むためとする説明があり、両者を区別した研究は少ない(渡辺, 2022)。
(例の文献は、説明のための架空のものです。)
文献を表で整理する
読んだ文献は、同じ観点で表に整理すると、共通点と違いが見えてきます。
| 文献 | 目的 | 参加者・方法 | 主な結果 | 限界 |
|---|---|---|---|---|
| 高橋(2019) | 睡眠と再生の関係 | 大学生40名、実験 | 睡眠条件で再生が多い | 干渉と定着を区別していない |
| 伊藤(2021) | 睡眠と再生の関係(高齢者) | 高齢者30名、実験 | 同じ傾向 | 参加者が少ない |
| 渡辺(2022) | 干渉と定着の区別 | 大学生60名、実験 | 一部の条件で干渉の影響が見られる | 課題が単語のリストのみ |
列は、自分の問いに関係する観点を選びます。表の「限界」の列は、自分の研究が答える空白を見つける手がかりになります(「文献の読み方とノートの取り方」)。
まとめる軸を選ぶ
表ができたら、どの軸でまとめるかを決めます。
- 論点・テーマごと:「睡眠の効果」「その説明」のように、問いに関わる論点で分ける(もっともよく使う)
- 立場ごと:睡眠の効果を干渉の減少で説明する研究と、定着の促進で説明する研究のように、対立する立場で分ける
- 方法ごと:実験の研究と調査の研究のように、方法の違いで分ける
- 時代の順:研究の流れそのものが大切なときに、時代を追ってまとめる
空白から問いを導く
先行研究のまとめの最後は、まだわかっていないこと(空白)を示し、そこから自分の研究の目的を導いて締めくくります。
- まだ調べられていない対象や条件がある
- 研究の結果が食い違っていて、理由がわかっていない
- 二つの説明が区別されていない
- 方法に共通の限界がある
以上のように、睡眠の効果を干渉の減少と定着の促進のどちらで説明できるかは、まだ明らかではない。そこで本研究では、睡眠をとらずに新しい情報の入力を減らす条件を設け、干渉の減少だけで再生が高まるかを検討する。
空白は、自分の研究で埋められる大きさのものを選びます。
よくある失敗
| 失敗 | 直し方 |
|---|---|
| 文献の紹介を並べている | 論点ごとにまとめ、研究どうしの関係を書く |
| 自分の仮説に合う研究だけを挙げている | 合わない結果の研究も取り上げ、どう考えるかを書く |
| 古い研究や、少ない研究だけにもとづいている | 新しい研究やレビュー論文も探す(「文献の探し方」) |
| 紹介記事や教科書の説明だけで済ませている | 大切な研究は、元の論文を読む(「一次資料と二次資料」) |
| 空白が示されず、目的が唐突に出てくる | 何がわかっていないかを書いてから、目的を示す |
| 文献の文を少し変えただけで書いている | 自分の言葉でまとめる(「言い換え(パラフレーズ)」) |
自分の仮説に合う研究だけを選んで挙げると、読み手に研究の全体像を誤って伝えることになります。都合の悪い研究も、正面から取り上げましょう(「反論と再反論」)。