序論の書き方:主題から問いを導く
序論は、答えを先に言う場所ではなく、問いを立てる場所です。主題から背景・問題を経て問いへと絞り込む流れと例、「結論から書く」との違い、よくある書き出しの失敗、序論を書く順番を紹介します。
序論は、レポートで問いを立てるところです。読み手が序論を読み終えたとき、「このレポートは何を扱い、なぜその問いを立て、どう答えようとしているのか」がわかるようにする。そこまでが序論の役割です。答え(結論)は、本論で論じたうえで、結論に書きます。
主題から問いへ、広いところから狭いところへ
序論は、広い主題から始めて、だんだん問いへと絞り込んでいきます。
- 主題:このレポートが扱うこと(忘却について)
- 背景:その主題について、わかっていること(忘却を説明する二つの考え方がある)
- 問題:まだわかっていないこと、食い違っていること、見過ごされていること(どちらが主な原因かで、記憶のとらえ方が変わる)
- 問い:だから、このレポートで何を明らかにするのか(主な原因は減衰か、干渉か)
- 道筋:その問いに、どう答えていくのか(両説を整理し、実験の証拠を比べる)
いちばん大切なのは、3 から 4 への流れです。「なぜその問いを立てる必要があるのか」が背景と問題から自然に導かれていると、読み手は問いに納得して本論へ進めます。
例
人は一度覚えたことでも、時間がたつと思い出せなくなる。この忘却がなぜ起こるのかについて、心理学では大きく二つの説明が提案されてきた。一つは、記憶の痕跡が時間の経過とともに薄れていくとする減衰説であり、もう一つは、ほかの記憶が思い出すことを妨げるとする干渉説である。二つの説明は、どちらも日常の経験とよく合うように見える。しかし、忘却の主な原因をどちらに求めるかによって、記憶の仕組みのとらえ方は大きく異なる。そこで本レポートでは、忘却の主な原因は時間の経過による減衰か、ほかの記憶による干渉か、という問いを検討する。まず両説の考え方を整理し、次にそれぞれを支持する実験的な証拠を比較する。
主題(忘却)→ 背景(二つの説明)→ 問題(どちらに求めるかで、とらえ方が変わる)→ 問い → 道筋、の順になっています。どちらの説が正しいかという答えは、まだ書いていません。
「結論から書く」との違い
「文章は結論から書きなさい」と教わった人も多いでしょう。これは、報告や連絡、ビジネスの文書のように、読み手がすぐに答えを知りたい文章の書き方です。
学術的な文章では、序論の役割が違います。読み手が知りたいのは、答えだけではなく、その問いがなぜ立ち、その答えがどんな手順で導かれたのかです。そのため序論では主題から問いを導くことに専念し、答えは論証を経たあとに示します。
答えを先に知りたい読み手のために、研究論文には要旨(アブストラクト)があります(「要旨の書き方」)。要旨は本文とは別に置かれ、目的・方法・結果・考察(結論)をまとめて示すものです。序論では、結論を先取りしません。
なお、授業のレポートは分量が多くないため、ふつうは要旨を付けません。卒業論文や修士論文では、要旨を別に求められることがあります。どちらも、授業や学科の指定に従ってください。
ほかの流儀もある
序論の書き方には、ほかの流儀もあります。英語の論証型エッセイでは、序論の最後に主張(thesis statement)を示すのが一般的です。日本語の作文の手引きにも、結論や要点を先に示すよう勧めるものがあります。分野や授業によっては、序論で結論の見通しを示すよう求められることもあります。
このガイドでは、序論は問いを立てる場所、という考え方を基本にしています。ただし、授業でほかの書き方を指定されたときは、その指定に従ってください。どちらの流儀でも、序論で問いがはっきり示され、結論がその問いに答えていることが大切なのは同じです。
よくある書き出しと直し方
| よくある書き出し | どこが問題か | 直し方 |
|---|---|---|
| 「人類の歴史において、記憶は〜」 | 主題が大きすぎて、問いまで遠い | レポートで扱う主題から書き始める |
| 「本稿では〜を考察していく」「〜を深掘りしていく」 | 考えることを予告しているだけで、問いがない。予告の「〜していく」も要らない | 問いの一文にする(「日常と意味が違う言葉」) |
| 「〜について述べる」で終わる | 問いがない | 「〜か」で終わる問いの一文にする(「問いの立て方」) |
| 「本レポートでは、干渉が主な原因であることを示す」 | 答えを先取りし、問いを導いていない(授業で別の指定がない場合) | 問いの形にし、答えは結論に回す |
| 「興味を持ったので、このテーマを選んだ」 | 個人の動機は、問いを立てる理由にならない | 何がわかっていないから問うのかを書く |
| 背景だけで序論の大半を使う | 本論の内容を先に書いてしまっている | 背景は問いを導くのに必要なだけにする |
序論を書く順番
研究の筋道としては、序論で問いを立て、そこから導かれる方法で論証を進めていきます。書くときも、まず序論から始めるのが基本です。
ただ、本論と結論を書き終えると、背景の説明が長すぎた、問いの言い方が本論の内容と少しずれている、といった点が見えてくるものです。そこで、次の進め方をすすめます。
- 序論の下書きを書く:主題・問い・道筋を、まず短く書く
- 本論と結論を書く:序論の問いと道筋に沿って論証を進める
- 序論を見直す:結論と並べて読み、問いと答えが対になるように整える
実験や調査のレポートでは、序論を見直すときも、結果を見てから仮説を書き換えてはいけません(「仮説の立て方」)。
書いた序論を確かめる
- 最初の数文で、レポートの主題がわかる
- 背景と問題から、問いが自然に導かれている
- 問いが、一文の疑問の形で書かれている
- どの順で論じるかが示されている
- 答え(結論)を先取りしていない(授業で別の指定がある場合は、それに従う)
- 結論が、この問いにそのまま答えている(問いの型と答えの型がそろっている)
問いそのものの立て方は「問いの立て方」で、問いに含まれる言葉の決め方は「言葉の定義」で、卒業論文での背景の書き方は「先行研究のまとめ方」で、結論の書き方は「結論の書き方」で紹介しています。