序論の書き方:主題から問いを導く

序論は、答えを先に言う場所ではなく、問いを立てる場所です。主題から背景・問題を経て問いへと絞り込む流れと例、「結論から書く」との違い、よくある書き出しの失敗、序論を書く順番を紹介します。

序論は、レポートで問いを立てるところです。読み手が序論を読み終えたとき、「このレポートは何を扱い、なぜその問いを立て、どう答えようとしているのか」がわかるようにする。そこまでが序論の役割です。答え(結論)は、本論で論じたうえで、結論に書きます。

主題から問いへ、広いところから狭いところへ

序論は、広い主題から始めて、だんだん問いへと絞り込んでいきます。

  1. 主題:このレポートが扱うこと(忘却について)
  2. 背景:その主題について、わかっていること(忘却を説明する二つの考え方がある)
  3. 問題:まだわかっていないこと、食い違っていること、見過ごされていること(どちらが主な原因かで、記憶のとらえ方が変わる)
  4. 問い:だから、このレポートで何を明らかにするのか(主な原因は減衰か、干渉か)
  5. 道筋:その問いに、どう答えていくのか(両説を整理し、実験の証拠を比べる)

いちばん大切なのは、3 から 4 への流れです。「なぜその問いを立てる必要があるのか」が背景と問題から自然に導かれていると、読み手は問いに納得して本論へ進めます。

例

人は一度覚えたことでも、時間がたつと思い出せなくなる。この忘却がなぜ起こるのかについて、心理学では大きく二つの説明が提案されてきた。一つは、記憶の痕跡が時間の経過とともに薄れていくとする減衰説であり、もう一つは、ほかの記憶が思い出すことを妨げるとする干渉説である。二つの説明は、どちらも日常の経験とよく合うように見える。しかし、忘却の主な原因をどちらに求めるかによって、記憶の仕組みのとらえ方は大きく異なる。そこで本レポートでは、忘却の主な原因は時間の経過による減衰か、ほかの記憶による干渉か、という問いを検討する。まず両説の考え方を整理し、次にそれぞれを支持する実験的な証拠を比較する。

主題(忘却)→ 背景(二つの説明)→ 問題(どちらに求めるかで、とらえ方が変わる)→ 問い → 道筋、の順になっています。どちらの説が正しいかという答えは、まだ書いていません。

「結論から書く」との違い

「文章は結論から書きなさい」と教わった人も多いでしょう。これは、報告や連絡、ビジネスの文書のように、読み手がすぐに答えを知りたい文章の書き方です。

学術的な文章では、序論の役割が違います。読み手が知りたいのは、答えだけではなく、その問いがなぜ立ち、その答えがどんな手順で導かれたのかです。そのため序論では主題から問いを導くことに専念し、答えは論証を経たあとに示します。

答えを先に知りたい読み手のために、研究論文には要旨(アブストラクト)があります(「要旨の書き方」)。要旨は本文とは別に置かれ、目的・方法・結果・考察(結論)をまとめて示すものです。序論では、結論を先取りしません。

なお、授業のレポートは分量が多くないため、ふつうは要旨を付けません。卒業論文や修士論文では、要旨を別に求められることがあります。どちらも、授業や学科の指定に従ってください。

ほかの流儀もある

序論の書き方には、ほかの流儀もあります。英語の論証型エッセイでは、序論の最後に主張(thesis statement)を示すのが一般的です。日本語の作文の手引きにも、結論や要点を先に示すよう勧めるものがあります。分野や授業によっては、序論で結論の見通しを示すよう求められることもあります。

このガイドでは、序論は問いを立てる場所、という考え方を基本にしています。ただし、授業でほかの書き方を指定されたときは、その指定に従ってください。どちらの流儀でも、序論で問いがはっきり示され、結論がその問いに答えていることが大切なのは同じです。

よくある書き出しと直し方

よくある書き出しどこが問題か直し方
「人類の歴史において、記憶は〜」主題が大きすぎて、問いまで遠いレポートで扱う主題から書き始める
「本稿では〜を考察していく」「〜を深掘りしていく」考えることを予告しているだけで、問いがない。予告の「〜していく」も要らない問いの一文にする(「日常と意味が違う言葉」)
「〜について述べる」で終わる問いがない「〜か」で終わる問いの一文にする(「問いの立て方」)
「本レポートでは、干渉が主な原因であることを示す」答えを先取りし、問いを導いていない(授業で別の指定がない場合)問いの形にし、答えは結論に回す
「興味を持ったので、このテーマを選んだ」個人の動機は、問いを立てる理由にならない何がわかっていないから問うのかを書く
背景だけで序論の大半を使う本論の内容を先に書いてしまっている背景は問いを導くのに必要なだけにする

序論を書く順番

研究の筋道としては、序論で問いを立て、そこから導かれる方法で論証を進めていきます。書くときも、まず序論から始めるのが基本です。

ただ、本論と結論を書き終えると、背景の説明が長すぎた、問いの言い方が本論の内容と少しずれている、といった点が見えてくるものです。そこで、次の進め方をすすめます。

  1. 序論の下書きを書く:主題・問い・道筋を、まず短く書く
  2. 本論と結論を書く:序論の問いと道筋に沿って論証を進める
  3. 序論を見直す:結論と並べて読み、問いと答えが対になるように整える

実験や調査のレポートでは、序論を見直すときも、結果を見てから仮説を書き換えてはいけません(「仮説の立て方」)。

書いた序論を確かめる

  • 最初の数文で、レポートの主題がわかる
  • 背景と問題から、問いが自然に導かれている
  • 問いが、一文の疑問の形で書かれている
  • どの順で論じるかが示されている
  • 答え(結論)を先取りしていない(授業で別の指定がある場合は、それに従う)
  • 結論が、この問いにそのまま答えている(問いの型と答えの型がそろっている)

問いそのものの立て方は「問いの立て方」で、問いに含まれる言葉の決め方は「言葉の定義」で、卒業論文での背景の書き方は「先行研究のまとめ方」で、結論の書き方は「結論の書き方」で紹介しています。

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