仮説の立て方:確かめられる予測にする
仮説は、実験で確かめる「予測」です。答え(結論)とは違います。理論から仮説を導く流れ、確かめられる仮説の条件、言葉を測れる形にする操作的定義、結果を見てから仮説を変えてはいけない理由を紹介します。
仮説は、実験で確かめようとする予測です。「本実験では、〜であれば〜になると予測した」のように、実験の前に立てておきます。
仮説は、答え(結論)ではありません。仮説が正しかったかどうかは、結果を受けて考察で論じます。序論で示すのは予測までです(「序論の書き方」)。
ことばの注意:結果が予測どおりでも、「仮説が証明された」とは書きません。実験の結果は仮説を「支持する」ものです(「日常と意味が違う言葉」)。「仮説にすぎない」という日常の言い方とも違い、仮説は、確かめる手続きとセットになった予測です(「日常と意味が違う言葉」)。
理論から仮説へ、仮説から予測へ
仮説は、思いつきではなく、理論や先行研究から導くものです。
- 理論:干渉説によれば、新しく入ってくる情報が、前に覚えたことを思い出しにくくする
- 仮説:覚えたあとに新しい情報が少ないほど、忘却は少ない
- この実験での予測:単語のリストを覚えたあと、眠った条件のほうが、起きて別の課題をした条件よりも、8時間後の再生数が多い
理論が正しければこうなるはずだ、という筋道が見えていると、結果が予測どおりでも違っても、それが理論にとって何を意味するのかを考察で論じられます。
確かめられる仮説の条件
| 条件 | よくない例 | よい例 |
|---|---|---|
| 何と何の関係かがはっきりしている | 睡眠は記憶に関係する | 学習後の睡眠は、翌朝の再生数を増やす |
| 向きが示されている | 条件によって再生数が違う | 睡眠条件のほうが、覚醒条件より再生数が多い |
| 結果によっては誤りだとわかる | 睡眠は記憶に何らかの影響を与えうる | (同上)。覚醒条件のほうが多ければ、仮説は支持されない |
| 実験で測れる言葉で書かれている | 睡眠は記憶を強くする | 睡眠は再生テストの正答数を増やす |
とくに大切なのは三つ目です。どんな結果が出ても「当たっていた」と言える仮説は、実験をしても、確かめたことになりません。
言葉を、測れる形にする(操作的定義)
「記憶が強い」「集中している」のような言葉は、そのままでは測れません。実験で何を、どう測るかを決めて、言葉を置き換えます。これを操作的定義と呼びます。
- 記憶の強さ → 8時間後の自由再生テストで正しく書けた単語の数
- 睡眠 → 学習のあと、実験室で8時間眠った条件
- 干渉 → 学習のあと、別の単語リストを覚える課題をした条件
操作的定義は、方法の節で具体的に書きます。言葉の定義そのものについては「言葉の定義」を見てください。
変えるもの・測るもの
仮説は、ふつう次の二つの関係として書けます。
- 独立変数:実験で変える条件(睡眠か覚醒か)
- 従属変数:その結果として測るもの(再生数)
「独立変数を変えると、従属変数がこう変わる」という形にすると、仮説がはっきりします。
結果を見てから、仮説を変えない
予測と違う結果が出たとき、序論の仮説を書き換えて、はじめからそう予測していたように見せることがあります。これは、結果を知ってから仮説を立てたことを隠す行為で、HARKing(Hypothesizing After the Results are Known)と呼ばれ、研究の手続きをゆがめるものとして問題にされています。
- 序論の仮説は、実験の前に立てたものを書く
- 予測と違う結果は、そのまま報告する
- 結果を見てから気づいた新しい考えは、考察で「今後確かめるべき仮説」として書く
予測が外れた結果も、理論を見直す手がかりになる、大切な結果です(「考察の書き方」)。
仮説を立てない研究もある
まだほとんど調べられていないことを、まず広く調べる研究(探索的な研究)では、はっきりした仮説を立てないこともあります。その場合も、何を明らかにするのかという目的は序論で示します。授業の実験では、ふつうは仮説を立てて確かめる形をとります。
なお、統計の検定で使う「帰無仮説」(たとえば「条件の間に差はない」という仮説)は、ここで述べた研究の仮説とは別のものです。検定の書き方は「結果の書き方」を見てください。